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zoom RSS 文族の春提出作品:【彼方と隆景の旅立ち】

<<   作成日時 : 2008/01/31 21:47   >>

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 台所から、とんとんと何かを刻む音がする。春日彼方は本を読んでいた手を止めて首だけをそちらに向けた。ソファが沈んで隣にいる風巻隆景もふと顔を上げる。

「彼方殿? どうしたのですか?」
「いや。今日のりん姉、やけにはりきってるなと思って」

言われて「ああ」と彼方も台所に視線を向けた。
そこでは、先ほどから一生懸命料理をしている奥羽りんくの姿がある。

「姉上は、練習しているそうです。拙者は、必要ないと思うのですが」

隆景は不思議そうに首をかしげた。りんくとともに暮らすようになってから、毎日食事を作ってくれるが、いつも美味しいものが出てくる。これ以上なにを練習する必要があるというのだろう。

「練習か……」

彼方は、隆景に向けていた視線をもう一度りんくに戻す。
この前、りん姉は奥羽りんくになった。『扇』りんくから、『奥羽』りんくへ。
それがなにを意味するのかなんて、彼方にだってわかる。

「彼方殿?」

横でほけっとしている隆景にはわからないかもしれないが。
なんてちょっとだけ皮肉めいたことを考えて、彼方は手にしていた文庫をぽんとテーブルに放ると立ち上がった。

「隆景、ちょっと話があるんだけど」
「?」

そう言って、キッチンと一続きになっている部屋から外へ出た。彼方の部屋には、年頃を慮ってなのか、りんくは用があるとき以外近づいてこない。彼女に内緒の話をしたいなら、絶好の場所であるとも言える。

「俺たち、二人で旅に出ないか」
「二人? 拙者と、彼方殿でですか?」

ここにいたっても、隆景は不思議そうな顔をしてみせた。旅に出るなら三人一緒。りんくと彼方と隆景と。そう信じて、欠片も疑ってないのだろう。

「りん姉は、近々、世界忍者国を出るつもりだ」
「拙者たちもそうじゃないんですか?」
「そうだけど」

と、彼方はここで言葉を切る。
いろいろと考えた。でも、りん姉の幸せのためには、これが一番いいに違いないと、そう思ったから。

「りん姉は絶対俺たちも連れて行こうとする。それは間違いない。けど、それだと俺たちが……りん姉の幸せの邪魔になったら困るじゃん」

ちょっとだけ、口調がつっけんどんになった。仕方ない。だって、あの雨の日に出会ってから、ずっと家族のように暮らしてきた。
彼方の言葉を聞いてようやく、隆景も思い至ったらしい。はっとした表情で彼方のことを見つめている。

「彼方殿……」
「俺は、りん姉には幸せになってもらいたい」

好きな人の話をするときのりん姉はとても嬉しそうだ。
言葉にしなくても伝わったなにかがあるらしい。もしくは、隆景もおぼろげに同じことを考えていたのだろう。彼方の言葉にひとつ頷くと、きっぱりと言った。

「姉上は、あの方と共に行かれるのですね」
「たぶん」
「なら、拙者たちもそろそろ自らの道を選ばなければ」

こうと決めたら曲げないのが隆景という少年だ。彼方も隆景のそういうところは、普通に尊敬している。

「ああ。俺たち、これでもけっこう強くなったはずだし」
「拙者もたくさん修行はしましたから」

この国にきて、本当にいろいろあった。家族ができた。戦争もあった。悲しいことも、楽しいことも、本当にたくさん。

「出発はいつに?」
「りん姉に言ったら、どうしたって連れて行くって騒ぐだろうから。思い立ったが吉日とも言うし」

彼方は自分の机の引き出しから、紙とペンを取り出した。かりかりと文字を書き、すぐに隆景へと渡す。

「置手紙をしたら、すぐに出よう」
「荷造りは?」
「5分」
「承知」

そして、30分後には二人揃って世界忍者国の国境付近にたどり着いていた。

「今更だけどさ、世界忍法ってすごいよな」
「まだまだ未熟ですが」

他愛のない会話をしながらてくてくと歩みだす。誰にも別れを告げぬまま、二人は気の向くままに旅立っていた。
またいつか、どこか出会うに違いないのだから、さよならなんて言わないとばかりに、一度も振り返ることなく。


「彼方くん、隆景くん? あれ? さっきまでそこにいたと思ったのに……」

りんくは家中を探していた。今日のご飯はかなりの自信作で、ぜひとも食べてみてほしかったのだ。

「彼方くん! 隆景くん! どこー?」

彼方の部屋を覗くが、やはりそこにも誰もいない。

「いない、か。おかしいなぁ」

ぱたんと部屋のドアが閉じられる。その拍子に、ひらりと紙が宙を舞った。表面に記されている文字は、間違いなく彼方と隆景のものだった。

『りん姉へ
 突然だけど、修行の旅に行ってくる。たぶん、しばらく帰らない。別に危ない旅とかじゃないから、心配しなくていいし。あと、あんまりボケてあいつに迷惑かけんじゃないぞー。じゃ、いってくる。

あねうえへ
せっしゃは まだまだ みじゅくなので かなたどのに ついて しゅぎょうしてきます。こんど あうときは もっと つよくなっているので たのしみに していてください。では、いってまいります。

追伸
 二人で幸せになってください 彼方&隆景』

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